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回帰する時間 ー対話ー
Cycle of Time   ーDialogueー

素材 絹、植物染料
2020年制作
ギャラリー白
京都府織物・機械金属振興センター

Material  Silk,Natural dyes
Year of creation 2020
Gallery HAKU
Kyoto Prefectural Textile and Machine Metal Promotion Center
Photo by Tomas Svab

 哲学者の内山節氏が著した「森にかよう道」には、時の流れについての考察が含まれている。「現代の人間にとって時間とは、時計の秒針のように同じ速度で動き、しかも時の矢のごとく直線運動をしていて、一度過ぎ去った時間は二度とかえってこないものと、とらえられている」それに対し、民俗学者の折口信夫らが提起した日本における別の時間世界に、同書は触れている。「時間は直線的に過ぎ去っていくのではなく、円を描くように回転して、また元のところに戻ってくる。それは一年を経てまた春がかえってきたというような時間の世界である。時間は永遠の回転運動をしている」
毎年、変わることのない春が、夏、秋、冬が巡ってくることが自然界にとっては重要であり、その循環が自然を形づくっている。(日本経済新聞 9/29 (39面)ランニング特集 「ランナーのホンネ」より)
 「回帰する時間(とき)」は1995年から作品のタイトルとしている。当時、山尾三省氏の本でこの言葉と出会い、こういう時間の流れを大切にしで生きていきたいと感じたのが始まりである。植物染料との関わりは、まさに「回帰する時間
(とき)」の流れに身を委ねるようだ。色の意味、美しさ、強さ、歴史、記憶について思考したい。
植物染料は糸や生地を浸して染める技法が中心で、刷毛で染める(引き染)ことは少ない。引き染は日本の型染技法の発達により、発展した技法である。化学染料が発見されたのはおよそ160年前、一般的に日本で流通したのは120年程前のことである。それまでは全て、植物染料であった。古くは紀元前3000年より植物染料の歴史は続いていると言われている。その太古から続く、天然染料に内包される記憶に想いを馳せながら作品を創る。
 抽出作業は、その植物の収穫した場所、気候、土壌、時期などで色は微妙に変化する。鮮やかに発色する色をだすには、その植物の色素含有量に多くの部分を頼ることとなる。天然の色素はそれだけで発色するわけでは無く、媒染剤と言って、アルミ、鉄、銅、などの金属を使用する。最近ではスズ、チタンも使用されている。植物の色素と金属媒染で様々な色が染まるのが植物染料の染まる仕組みである。                                              生地によっても染まり方や色は変化する。染料の染み込みやにじみの力で、偶然に美しい関係に出会うこともある。染料と媒染剤と生地の関係は全てのパターンで違い、思うようにはならないことも多い。植物染料を抽出するときは、その植物とまるで話をしているようである。染めているときは、せめぎ合いをしているかのように感じることもある。何度やっても、どうしてもできなかた部分、予期しないムラや滲み。一点一点、植物染料と対話しながら作ったように感じる。作品と対話するように観ていただければ幸いです。

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