回帰する時間　ー天より降り注ぐ音ー
Cycle of Time   ーMusic is to rain down from heavenー

　幼い息子をベビーカーに乗せて家族で歩いた、夕暮れの祇園祭の記憶。鉾から聴こえる囃子。鉾から垂れ下がる囃子方の房（ふさ）がリズミカルに、時には静かに規則正しく、時には驚くほど激しく動く様を、息子が飽きずに眺めていた思い出。音はまるで天から降りそそぐかのように響き渡る。ただ無事にそこに存在することを祝福する祈りの音のようである。
　祇園祭の歴史は遠い外国との貿易の歴史と深く結びつく。祇園祭を彩る染織品は海を渡ってもたらされた品々と、日本で作られた染織品の華麗な融合の歴史ではなかったのかと想像する。私にとって天然染料を使うことは歴史の記憶と結びつくことである。今回の作品は、遠い昔から続く、鮮やかな天然染料で彩られた祇園祭に想いを馳せながら、息子とのささやかな個人的な記憶を織り交ぜ制作した。